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前ページ次ページゼロと聖石 私が召喚したものはたった一つの石だった。 周囲からは『ゼロ』と囃し立てられ、私が再召喚の申請をしても監督の教師はそれを認めなかった。 契約の儀式を済ませると、その石に一つの模様が刻まれる。 ルーン文字とは違うその模様が、私の人生に影響を与えるなんて今の時点の私にはわからなかった。 私は悔しくて、悔しくて、涙で枕を濡らした。 私をゼロと罵る声が。 今まで応援してくれた先生の期待を裏切ってしまったこと。 なによりも、魔法が使えないこと。 それら全てが悲しくて、涙を流した。 石が、光を放った。 寝てしまったのか、目を覚ますとそこは廃墟だった。 いや、魔法陣の中に入った記憶がある。 つまりここは現実、感覚も全てはっきりしている。 ポケットの辺りが熱い。 取り出してみると、あの石がほんのりと光を放っている。 甲高い音を響かせながら光は私を導き出した。 最初に異変に気が付いたのはメイドのシエスタだった。 仕事が終わり、眠ろうかと思ったが女子寮の一室が光っていた。 魔法を使った新しいランプかと思ったが、それは即座に否定できた。 青い光など見たこと無かったから。 すぐさま寮監の下へと走っていった。 もともとは栄華を誇っていたのであろう廃墟は、王都を丸ごと入れてもお釣りがくる位の広さだ。 おおよその測距で王都の端から端まで歩いた距離以上を歩いたからだ。 それでも先は見えてこない。 そう思って更に歩き進めると桟橋と思われる部分に出た。 そこには、朽ち果てた飛行船が泊まっていた。 寮監がオールド・オスマンほか優秀なメイジを集め、ルイズの部屋に突入する。 床に、壁に、天井に広がる見たことも無い魔法陣。 ルーンとも違う言語で書かれた文字は淡く光を放つ。 見とれていたのは一瞬、すぐさま魔法陣の解析を始めた。 朽ち果てた飛行船の上に立ち、辺りを見渡す。 桟橋からは気が付かなかったが、辺りには無数の朽ちた飛行船が転がっていた。 ああ、墓場なんだな。と理解した。 この廃墟自体が死んだ都市、死してなおさまよう魂たちが住む死都なんだと。 石が振るえ、私の手を離れて浮く。 ―――聖石を持つものよ、我と契約を結べ 汝の深き悲しみが我を呼び起こした さあ、我と契約を結べ 石から聞こえる声が、私に問いかける。 「……契約?」 私は意志に問いかけてみる。 ―――さすれば汝の魂は我が肉体と融合し、永遠の生を得ることができよう… 石の回答は人間の欲望を解りやすく表現したものだ。 だから、私は言った。言ってやった。 「そんなものは要らない。私はただ魔法を使えるようになりたいだけ」 そう答えた瞬間、石はまばゆい光を放ち、周囲を包む。 ―――我は聖天使アルテマ。清らかなる汝の魂に宿り、汝の願いを聞き届けよう 強制ですか、かなり強引だなこの聖天使は。 青い光が、アルテマの魂が私の体内に入り込む。 そこで私の意識は途絶えた。 魔法陣が光を強めた。 オスマンが全員をかばう様に障壁を作り出し、有事に備える。 光は激しく唸りを上げ、そして急に収まった。 魔法陣はすでに消えうせ、魔法陣の中心、部屋の中央にルイズが倒れているだけだった。 目が覚めると、医務室だった。 先生の話によると昨日起こったことが原因で今日は休校。 食事を済ませたら学長室まで来るようにといわれた。 やはり、あれは夢なのだろうか? いや、アレは夢なんかじゃない。 聖石は今もこの手の内に。 そこで違和感に気が付く。 毎日手入れを欠かしていない髪の毛が白く見える。 いや、殆どはいつものピンク色なのだが、ちょうど一房分が白く染まっていた。 そこの部分だけが光を強く反射して光っている。 これは一大事、すぐさま部屋に戻る。 化粧箱を引っ張り出し、リボンを取り出す。 前髪は仕方が無いのでそのままにしてポニーテールに、白い部分はポニーに巻きつけるようにしてまとめる。 即席だが何とか見栄えする姿にまとまった。 と、そこでお腹が唸りを上げたので朝食にすることにした。 「つまり、その廃墟で君はその石、聖石と契約をしたんじゃな?」 「はい、始祖の名に誓って嘘は言っておりません」 オールド・オスマンから発せられるプレッシャーに満ちた発言に嘘偽り無く答える。 普段はミス・ロングビルのスカートを覗き見することしか興味が無いようなスケベ爺さんという認識を改めよう。 ここで嘘をついたら殺す、口調はともかく目がそう言っている。 「あい分かった、お疲れ様じゃのミス・ルイズ」 「それでは、失礼します」 そのまま退出し、裏庭に向かう。 自室は検査の真っ最中で、契約で思い出したことがあったからだ。 あの夢の通りなら魔法が使えるかもしれない。 だけど失敗は怖い。 そうなると必然的に裏庭での練習になるわけで――― 結論から言っておこう。 全身煤けています。 あたりは破壊の限りを尽くしたかのごとく地面が抉れている。 四系統はおろか、コモンですら失敗の嵐。 ああ、もう! せめて空ぐらいは飛びたいとか思った私が馬鹿だった! ―――唱えるべき言葉が違う 自身の内から湧き出る言葉を紡げ――― 不意に聖石の声、いや、アルテマの声が響く。 その通りに意識を自身に埋没させる。 「慈悲に満ちた大地よ、つなぎとめる手を緩めたまえ…」 周囲に魔力が満ち、私の足元に空気が集まる。 「レビテト!」 空気が圧を持ち、体が持ち上がる。 大よそ30サントくらい。 …………これ、レビテーションとしては失敗の部類に入るんじゃないだろうか? 一抹の不安を残しつつ、使える魔法を確認するために自身の意識に埋没して魔法を確かめる。 火を発生―――ファイア 稲妻を発生―――サンダー 氷を発生―――ブリザド 障壁を発生―――ウォールかマバリア 傷の治療―――ケアル そして、対象の破壊―――アルテマ 今のところ浮かんできた魔法はこれだけ。 さすがに物理的・魔法的障壁に加え、継続治療に気絶時の強制意識回復を発生させるマバリアが一番魔力を消費する。 一番破壊力があってアルテマだろう。 利便性では系統魔法に近い四つ、いやケアルは系統じゃないから3つが一番良いかもしれない。 ただ、問題が有るとすれば――― 「完全自動追尾は嬉しいけど即効性が無いのよね…」 ある意味致命的な問題だった。 指定範囲に魔法を発動させたり、動いている目標に対し追尾発動する。 しかし、即座に作り出せるフレイムボールなどと違い、詠唱にどうしても時間がかかる。 早口の練習でもしようかな? そう思いつつ、寮へ歩き始めた。いつもより30サント高い目線のまま。 こうして休校の一日は過ぎていくのだった。 前ページ次ページゼロと聖石
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前ページ次ページゼロと聖石 聖堂。 テンプルとも言うニューカッスル城のそこは、城にふさわしい規模を誇っていた。 絢爛豪華に造られた其処は、アルビオンにおける生誕から葬儀まで喜びと悲しみを見届けた場所。 ここだけ空気が澄んでいる気がする。 同時に死者の臭いも感じることが出来る不思議な空間だ。 そんな神聖な場所の祭壇前にウェールズ皇子が祈りを捧げていた。 私もそれに習い、始祖に祈りを捧げる。 祈るのは私にとっての平穏な日常。 ちょうど、あの時のやさしい夢。 全員がほほえましく笑いながら過ごしたあの夢を。 不意に、ウェールズ皇子が立ち上がり、指から指輪を抜いた。 それを私に握らせ、 「これを、アンに。これを渡せば分かってくれるはずだから」 泣きそうな私を叱責し、その指輪を懐に収める。 必ず、アンリエッタ様に、何があっても渡そう。そう決心した。 そして、ワルド様遅いなとか考えていたら――― 空を裂く音が響く。 私は反射的にウェールズ皇子を弾き飛ばした。 音は聞こえない。 私の体に風の刃が食い込む。 痛みを堪え、詠唱をしようとした瞬間、私はワルド様に抱えられていた。 「私の目的を何か教えよう、プリンス・ウェールズ」 次の瞬間、ワルド様が三体現われる。 風の偏在だ。 「一つは密書の奪取、もう一つは君を殺すことだ!」 「貴様、レコンキスタか!!」 私を抱えたまま偏在をけしかけるワルド様、いや、ワルド。 おそらく、聖石とその使い手を同時に手に入れて手柄としようとしているのだろう。 そんな彼に気が付かれないようにケアルを詠唱。 止血程度に傷が回復。同時に私はある一つの魔法を詠唱。 「ひるがえりて来たれ、幾重にもその身を刻め…ヘイスト!」 対象を地点に設定し、ワルドに掛からないように私だけ時間の流れが速くなる。 即座にテレポで脱出し、アルテマで偏在を一体消す。 「やってくれたわね、そう簡単に死ねると思わないことね、ワルド!!」 その言葉に反応したのかは分からないが、偏在が二体追加、これで五対二、いや、 「コイツ偏在か? おでれーた、こんなに偏在見たの久しぶりだぜ」 偏在の一体にデルフが刺さっている。 背後のステンドグラスにヒビと剣一本分の穴。 その穴を中心にステンドグラスが割れる。 降り注ぐ乱反射した光とガラス片。 シエスタがデルフを床から引き抜いて構える。 「さぁて、皇子様を狙う悪役を倒すヒロイン様の登場だぜ!」 「あ、あの、お助けにきました!」 以前やった大跳躍で飛び込んできたのだろう。 それにしてもなんてタイミングのいい。 ワルドも一瞬だけ驚きの表情を浮かべ、すぐに余裕を取り戻す。 シエスタが一度戦い、勝利した相手だからだろう。 その自信という名の慢心を、ぶち壊そう。 三人が突撃するのに合わせ、ワルドが更に偏在を追加。 そしてシエスタにはワルド本体、ウェールズ様と私に二体が付いた。 さあはじめよう、死の舞踏を。 シエスタが盾を捨て、鎧の内側から剣を抜いてワルドの剣を受け止める。 私は瞬発的な詠唱でサンダラを詠唱、牽制しつつテレポで隙をうかがう。 ウェールズ皇子は剣に真空の刃を纏わせ、偏在と打ち合っている。 シエスタに向かって風の刃が飛ぶ。それをデルフで打ち消しながらワルドを追い詰める。 偏在が詠唱したのに合わせてブリザラで障壁を作り、ウィンドブレイクを弾く。 さすがに二対一は厳しいのか、防戦一方のウェールズ皇子。 そして、シエスタがワルドを壁際に追い詰める、これで詰みだ。 こっちも仕上げとばかりにウェールズ皇子が苦戦している偏在の真後ろにテレポ。 それを追いかけるように私について来た偏在が射程に入る。 その直後にテレポ、一気に指定範囲から離れる。 「鏡なす心に問いて魔の流れ鎮めん…ミュート!」 魔力を失った偏在が掻き消え、シエスタが剣を突きつける。 そしてワルドの杖を落そうとして、 後ろから現われた偏在に腹部を刺される。 声を上げる暇すらない。 駆け寄ろうとして、ウェールズ様が偏在に杖を破壊され、刺される。 怪我自体は深くなさそうだが、戦闘に参加できるような状態ではない。 髪をかきあげ、更に偏在を二体追加。 これで形勢は逆転。 私の魔法は発動が遅いから唱えても先手は確実に向こう。 覚悟を決めるしかない。 突進してくる偏在に私は、あの時の訓練を思い出す。 ―――サンダラを外してしまい、シエスタが突撃してくる。 私は本能で詠唱を必要とせず、即座に効果があり、威力が高い魔法を選んでいた――― 突進してくる偏在の杖にはエアスピアーという接近戦用の魔法だ。 アレに刺されたら確実に傷はえぐられるだろう。 だから、私は迷わなかった。 たとえ、これを使った事で再び、 「ゼロと呼ばれようが、私は生きるのよ! 錬金!!」 錬金の魔法が偏在の杖に作用、昔のように魔法が失敗し、爆発。 衝撃は凄まじく、偏在をかき消す。 「やはり君の魔法は聖石の力か、残念だが君を殺して聖石をいただいていくよ!!」 偏在が三方向から襲い掛かる。 幸いにも偏在に力を注いだのか魔法は使ってくる気配は無い。 私はコモンマジックで偏在の一体を爆破。 そのままその偏在に近づいて杖ごと爆破。 残り二体。 振るってくる剣にタイミングを合わせ、杖でガード。 お返しとばかりに帽子を錬金。 偏在はそれに反応、即座に帽子を投げて回避。 もう一体がこちらに対して振りかぶってくる。 テレポで跳び、更に追加で偏在の手袋を錬金。 手を中心に偏在が吹き飛ぶ。 残り一体。 即座にテレポで飛びながらワルド本体に向かってテレポ。 一瞬で目の前に来たことに驚いたかどうか知らないが、即座に範囲指定して離れる。 タイミングを伺い、再度ワルドに接近。今度は真横。 杖で脛を思いっきり叩く。 横に偏在が迫ったところでテレポ。 そこでミスしてしまった。 跳んだ先は先ほどワルドから離れるときに跳んだ場所。 そこにテレポで着地。 目の前には新たに作られた偏在。 エアスピアーで思いっきり腹部を刺される。 同時に錬金で爆破。 これで、ワルドの偏在は残り一体。 しかしこちらは重傷。 あのワルドがこちらの詠唱を許すわけが無い。 錬金を警戒して、ある程度の距離をとって、エアニードルを連打。 急所はかばったが、このままだと確実に死ぬだろう。 そこで偏在を解除し、悠然と歩み寄ってくる。 朦朧とする意識の中で、私は必死に呟いた。 「君は確かに強かったよ、ルイズ。しかし、『ゼロ』ごときが『閃光』に挑むなど無謀だった。 あのメイドもたかが平民のくせに貴族に歯向かうからこうなった。我々レコンキスタに歯向かうとこうなるのだよ」 「―――恨み、あります」 「まぁ、ゼロごときにこの石はもったいないな」 「―――呪い、あります」 ワルドが私の体に手を伸ばす。 「レコンキスタが有効活用してあげよう。なに、君は尊い犠牲となるだけだ」 「―――貴方にあげます! ライフブレイク!」 間一髪で詠唱が間に合う。 ルイズの体から放たれた暗い魔力の波動がワルドを包み込む。 「こ、これは!?」 「貴方が散々いたぶってくれたおかげでこの術の効果は抜群よ、 私が受けた痛みを、この恨みを、すべて受け止めろ! ワルド!!」 その魔力波動は容赦なくワルドの体を蹂躙しつくす。 圧倒的な破壊の渦に飲み込まれたワルドは、立っていた。 「こ、の…ゼロがぁああああ!!」 残った魔力を振り絞った偏在なのか、若干存在感の無い偏在が三体。 私に襲いかかろうとした瞬間、 「大気満たす力震え、我が腕をして閃光とならん! 無双稲妻突き!」 凛々しいシエスタの声が、響く。 偏在が、地面から空に落ちる雷の刃に突かれて消え去る。 そのことに驚いている間も無く、ワルドの左腕が切り落とされる。 「これが、平民が戦うために鍛え上げた、牙の力です―――!」 更に冥界恐叫打で杖を破壊する。 「く、引くしかないのか―――貴様だけはこの私が倒してくれる、平民!!」 そう言って、シエスタが割ったステンドグラスから外へと飛び出していった。 「覚えておけ! 私はシエスタ。シエスタ・デュライ! 貴様の首を貰い受ける者の名だ! そして、刻め! 私は幾多の騎士の頂点に立つ『剣聖』を目指すものだと!!」 そう、シエスタは叫んでいた。 「覚えておきなさい! 私は『ゼロ』にして全てを極めんとする無限の知識の体現者! 『ゼロのグランドマスター』ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! その使い魔聖天使アルテマの名を!! 私達二人が、貴方と『レコンキスタ』に無間地獄を見せるものだと!! 心に刻め!!!!」 この場において、『ゼロ』と呼ばれたメイジも、平民の給仕など居なかった。 其処には、勇壮なまでの騎士と、全ての知識を極めようとするメイジが二人で立っていた。 その直後、二人は仲良く床に仰向けになった。 前ページ次ページゼロと聖石
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前ページ次ページゼロと聖石 戦いが終結してから、三日が経過した。 あの日、ルイズ様が放ったアルテマを切っ掛けに、レコンキスタを追い払えた。 しかし、その代償は大きかった。 ルイズ様とアルテマの半融合化。 アルテマの魂がルイズ様の魂に混ざり合った。 現在の割合としてアルテマの魂半分、ルイズ様の魂半分。 ベースこそルイズ様だが、髪の毛の色は完全に侵食された形になる。 目が覚めたとき、ルイズ様は、ルイズ様なのだろうか? あの約束を、守ってくれるのだろうか? タイムリミットは近い。 今回の一件で、タルブ村の存在そのものが大きく広まってしまった。 貴族に対抗しうる力を持つ、平民達が住む村。 領主には認められていたが、この戦いでその力が示されてしまった。 近接系のジョブは技術を教えるだけで済むだろうが、魔法が使えるデュライ家はアカデミー送りだ。 チョコボも本来生息していない生き物だ。 どちらにせよ、捕まれば確実に生きて帰れないだろう。 それでも、私たちは人間だからいい。 問題はルイズ様だ。 外見上の変化はないが、人間じゃないと知られたとき――― 皆にはまだ伏せてある。 このことを知ってしまったらどうするのだろうか? でも、決めるのは私の役目じゃない。 ルイズ様が、自分で考えることだから。 外は晴天、青空がまぶしい。 横を向くとルイズ様が起き上がるところだった。 私は嬉しくなって、声をかけようとした。 ―――約束が果たされたのなら、どんなに幸せなことか。 そして、果たされない約束はどんなに過酷なことか。 「あの、どちら様でしょうか? それと、ここはどこでしょうか?」 明るい日差しを感じて目を覚ます。 目の前には少女。 私が起きたのを喜んでいるみたいだ。 でも、貴女はだれ? ここはどこ? ―――私は、誰なの? 「あの、どちら様でしょうか? それと、ここはどこなのでしょうか?」 率直に、思ったことを伝えた。 よく解らないが、見ず知らずの人に助けてもらったのだ。 名前くらいは聞いておかないと。 「る、ルイズ様。そんな冗談、やめてください…」 「ルイズ? それが私の名前なの?」 この子の名前は解らなかったが、私の名前はルイズと言うらしい。 じゃあ、貴女はルイズという存在にとっての何だったの? わからない。 「―――冗談じゃないの、ですね」 「ゴメンなさい、私、自分が何者かすらわからないの」 わからない、ここがどこか、わたしがなんなのか、何をしていたかも。 だから、せめてわからないことを、聞くことで埋めていこう。 「貴女の、名前は?」 「シエスタ………と、申します」 うん、シエスタね。 ちゃんと覚えたわ。 ルイズ様が目覚めてから三日が経った。 当然ながらキュルケ様にタバサ様、ギーシュ様も驚いていた。 本来なら側に居て下さいと言いたかった。 しかし、タバサ様は実家からの呼び出しで戻らなければいけなかった。 キュルケ様もそれに付いて行き、ギーシュ様も一度学院に事情を説明に行くそうだ。 ルイズを学院につれて帰るか? との言葉に、私は首を振った。 起きたばかりで、心身の負担が激しい為だ。 そのルイズ様は自身の記憶を思い出せずに、今日もチョコボと戯れている。 でも、アルテマの封印という意味では最高なのかもしれない。 常に身に着けているヴァルゴは光を放たない。 本来であれば、ずっとお世話をしていたかったが――― 「ここに私たちがいると、迷惑になってしまいますから」 オーラン・デュライが技を教え、貴族と対等に渡り合った末に出来上がった私の故郷。 領主に対して、冒険者による収益という形で認めてもらった村の拡大。 貴族などには一切伝えず、冒険者にのみ伝える村の存在。 それらの一つ一つが、私たちの記憶だ。 家族はゲルマニアの方へ、私は魔法学院の奉公としてひっそりと身を潜めるつもりだ。 鞄に最低限の衣服や装備を詰め込む。 広くなった部屋を見る。 柱に刻まれた傷は、私の成長の証。 天井に残る傷は、素振りの最中に出来た思い出。 ―――さようなら。 ドアを閉め、思い出を振り切って私は前に進む。 とりあえず、休暇が残っているからラクドリアン湖に行ってみよう。 家を出て、ルイズ様にお別れを言おうとした瞬間、私は固まった。 ルイズ様が、複数の傭兵に囲まれていたからだ。 「あの、何か御用でしょうか?」 チョコボと遊んでいたら、鎧を着込んだ人たちが私に近づいてきた。 彼等は銀髪がどうとかということを口に出していた。 そして、その中でもリーダーっぽい人が、私の前に立つ。 「間違いない。こいつがあの時の天使だ!」 「こいつを連れて行けば俺等は強制労働を免除なんだな!?」 天使? 私のこと? それよりも、この人たちの目が、 ―――怖い。 腕を掴まれ、引っ張られる。 なに? どういうことなの!? 「こっちへ来い!」 必死に抵抗するけど、私と相手の力の差は覆せない。 怖い、怖い、怖い―――! 「助けて! シエスタ!」 「一体何のつもりですか!? いきなりこんなことをして!」 男の下へ走り、手首を叩いてルイズ様の腕を自由にする。 同時にルイズ様と男の間に割って入り、かばうようにする。 「邪魔をするな、俺達はその女に用があって来たんだ」 「用があるのなら口頭で伝えればいいじゃないですか、それなのになぜいきなり乱暴を?」 男達の目が鋭くなる。 「トリステインのアカデミーの連中から、タルブ村に現われた天使を捕まえてくれば強制労働を免除してくれるってな」 「幸いにも特徴自体は覚えていたからな。さて、そこをどいてくれ」 「何も命まで取らないさ。ただ、どかないと痛い目見るぜ?」 湧き上がる怒りを抑え、デルフを抜く。 「そんな理由のために、この方を渡すものですか」 「止めておけ、一人でこの人数を相手に出来ると思うなよ?」 ―――邪魔だ。 デルフを振り、男が剣を抜く直前に鎧を破壊する。 返す太刀で抜かれた剣を破壊。 「ルイズ様は、全てを賭して守るべきものを守り抜いた」 他の男達が剣を抜くが、それよりも速く聖光爆裂破で全員をなぎ払う。 「そのルイズ様に、これ以上触れさせるものか!」 口笛を吹き、トウホウフハイとミメットをを呼ぶ。 ミメットにルイズ様を乗せ、私はトウホウフハイに跨る。 「ルイズ様、出かけましょう」 「うん、シエスタ」 トウホウフハイが飛ぶのと同時にミメットも飛び上がる。 とりあえずは、親戚の所に行こう。 彼女なら事情を聞かずにかくまってくれるはず。 先ほどの恐怖も忘れ、眼下の景色にはしゃいでいるルイズ様を見ながら、私は決心した。 前ページ次ページゼロと聖石
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前ページ次ページゼロと聖石 決闘から一週間。 いろいろ変化があった。 まず、謹慎を食らった。一週間も。 相変わらず系統魔法は使えないが、それに変わる魔法が使えるので問題は無い。 ただ一部の人たちが、 『あの使い魔はエルフの魂が篭っていてルイズはそれに乗っ取られている。だから先住魔法が使える』 とかうわさをしている。 いや、先住に近いけれど先住魔法じゃないし。 というかアルテマはエルフじゃなくて聖天使だ。 『一部分だけ白く染まったのがその証拠だ!』と喚いていたヤツにレビテトで三日くらい浮きっぱなしにしておいた。 そんなことを考えながら部屋で勉強している昼下がり、タバサという子がたずねてきた。 「あなたの使った魔法、アレは何?」 そんな彼女とはちょっとだけ秘密を教えた後、すぐに打ち解けられた。 精神に関する魔法は有るか? と問われたときは素直に分からないと答えておいた。 今後、相手を眠らせる魔法とか混乱させる魔法は出てくるかもしれないが、今は不明だ。 「失礼します、ティータイムのお菓子をお持ちしました」 これは一週間限定だが、あの時結果的に助けたメイドが食事の準備などをしてくれる。 彼女はシエスタ。珍しい黒髪のメイドで、胸のサイズは私の敵だ。 ただ、彼女は以外に気が利いていて、私付きのメイドとして雇いたいぐらいだ。 一つ気になるのは、彼女がそばにいると微かに聖石が震えるのだ。 そうそう、これはあんまり嬉しくない変化だが、 「ハァーイ、ルイズ! 辛気臭く謹慎してる?」 そう、あのいけ好かないツェルプストーがよく出入りするようになったことだ。 散々騒いだ後、去っていくのだから迷惑この上ない。 ただ、二人で騒いでいる時が一番楽しいかもしれない。 そういったものだ。 そして、謹慎も終わった虚無の曜日。一番変化が激しかった一日。 私達三人は王都へ買い物に来ていた。 「えーと、各種ハーブに聖水、ちょっとした金の塊…」 「一体何に使うのよ?」 「即効性のある水の秘薬に石化解除、消耗した魔力の回復とかそういったもの」 タバサと知り合いになってから、移動が楽になった。 シルフィードなら移動が楽ちんだ。 オープンカフェで買ってきたハーブや薬品を混ぜ合わせてポーションを作る。 エリクサー以外は作ることに成功。というかエリクサーってどうやって作るのよ? そして、目的も済んで学院に戻る。 中庭に降り立ち、寮に戻ろうとしたとき、聖石が甲高い音を上げた。 「おかえりな…さい、ミス・ヴぁりえーる―――」 寮の入り口前にはあからさまに様子のおかしいシエスタ。 右手にはさびた剣、左手には――― 「聖石!?」 独特の模様が刻まれた緑の石。 それが私の石と反応して共鳴しあっている。 ―――彼女は我等の魂に抗っている――― それが本当だとすると、何者か分からない、アルテマクラスの存在がシエスタを乗っ取ろうとしている。 直感的にそれはさせてはならないと魔法の詠唱を開始。 「タバサ、キュルケ、彼女を取り押さえるわよ!」 「ちょ、ルイズ!?」 「大地に眠る古の光、眠れるその力を地上にもたらせ! ウォール!」 自分でも現在最速の詠唱を行って障壁を全員に張る。 次の瞬間にはシエスタがこちらの懐に潜り込んできた。 私に剣を振り下ろそうとして、キュルケのフレイムボールに妨害される。 「問答無用ってわけ? 微熱を甘く見るんじゃないわよ!」 同時に幾つもの火球を作り出してけん制する。 それにあわせてタバサもウィンディアイシクルで相手の動きを封じようとする。 それを見てシエスタは後ろに下がり、剣を大上段に構える。 「身の盾なるは心の盾とならざるなり! 油断大敵! 強甲破点突き!」 剣先はタバサの方向、とっさに氷の障壁を作り出す。 発想はよかったが相手の技との相性は最悪だった。 地面から襲い掛かった刃は氷の障壁を貫き、あっさりとタバサの腹部に直撃した。 幸いにしてウォールの効果で吹き飛ばされるだけに留まったが、それ以上に深刻な事態を招いていた。 「た、タバサ…服が、胸から下、シャツが切り裂かれてる」 シエスタが使った技は装備破壊と呼ばれる技術の篭った剛剣技、その中でも鎧を破壊する技。 肝心な部分が見えてないので作品的には大丈夫なはずだ、多分。 そんなの気にしないとばかりにウィンディアイシクルでシエスタの動きを封じ続ける。 「何とか出来ますように、ついでにシエスタが耐えられますように。 渦なす生命の色、七つの扉開き力の塔の天に到らん! アルテマ!」 膨大な光がシエスタを包み込もうとした瞬間、剣に弾かれるようにアルテマがかき消される。 「はい? ちょっとそれって卑怯じゃないの?」 「どう考えても卑怯よね?」 「この後の行動方針は決まった」 タバサがウィンディアイシクルを唱えてけん制した次の瞬間、 「「「脱兎のごとく逃げろ!」」」 三人が全速力で走りながら広場を逃げ回る。 と同時に三人がそれぞればらける。 シエスタはルイズを追いかける姿勢をとる。 それを見たタバサとキュルケは魔法でシエスタの足を止めると同時に、氷を炎で溶かして水蒸気を作り出して視界を封じる。 ここでルイズが攻めに転じる。 これまで見せていなかったテレポでシエスタの右手側に跳ぶ。 跳んだ瞬間に杖で右手を叩き、聖石を落とさせ回収。さらにテレポで間合いを取る。 これでシエスタも元に戻るはず。 そうしてシエスタの方を見ると、 「我に合見えし不幸を呪うがよい。星よ降れ!」 ぎゃー! まだ正気に戻ってない!! ええいもう何とか行動封じられれば―――そうだ、一つだけあった! 「時を知る精霊よ、因果司る神の手から我を隠したまえ…ストップ!」 「星天爆撃打!」 詠唱と同時に降り注ぐ巨大な刃。 宝物庫周辺の壁を砕きながらその牙を突きたてようとして、止まった。 シエスタに対するストップが成功して、攻撃も止まったのだろう。 刃は消え去り、シエスタは固まったまま。 この惨状をどう説明したものか、考えていたそのときに、 巨大なゴーレムが学院に現れた。 前ページ次ページゼロと聖石
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前ページ次ページゼロと聖石 「店長、オーダー入りました」 「うーん、ルイズちゃん頑張るわねぇ。でも、ミ・マドモワゼルと呼んで頂戴?」 「はい。お世話になってるのに何もしないのは気が引けますから、ミ・マドモワゼル」 シエスタとの旅立ちから一週間。 途中の追っ手を振り切って預けられた場所は『魅惑の妖精亭』という場所。 「私が囮になって、振り切った後に迎えに来ます」 そう言って、私はここに預けられた。 最初は抵抗があったが、スカロンさんはいい人だ。 それと――― 「ルイズ、十番のテーブルお願い」 「はーい」 従業員のまとめ役のジェシカも気が合う。 彼女はチップを集めるのがうまく、私とは年季が違う。 私も見習おう。 「ワインをお持ちいたしました」 「お、ルイズちゃんか」 この人はいつもの常連さん。 私が働き始めてからは、いつも指名してくれる。 若干目が危ないように見えるのは私の気のせいか? 「いやぁー、今日もルイズちゃんの所に来ちゃったよ」 「ありがとうございます。奥さんと仲良くしてますか?」 このやり取りも定番になった。 注文も解っているので、いつもの? と聞くだけで済む。 こうして、毎日頑張るのだった。 シエスタが預けてった女の子、ルイズ。 働き始めこそぎこちなかった物の、数日でその緊張は取れてしまった。 徐々にだが、固定客が付き始めている。 数ヶ月働けば、それだけで私に追いつけるだろう。 「故郷を救ってくれた人、か」 その実感は湧かない。 シエスタが言うには、デュライ家にしか使えない魔法を完全に使いこなすそうだ。 傍流の私ですらその一端に触れるのが精一杯なのに。 まぁ、私はその代わりの技を持っているが。 彼女がそれなりの力を持っていたとしても、それが発揮されることはないのだろう。 ここはあくまで酒場。 そんな剣とか魔法とか必要なほど荒れないだろうし、荒れても私がとっちめる。 おっと、仕事に戻ろう。 しばらくはチップレースの下地造りだ。 ここに来てから大体二週間目だろうか? 来週はチップレースというイベントだ。 チップをどれだけ集めたかという内容になるわけだ。 今までの動きから見て、ジェシカはそのための布石を張っていたらしい。 そんな嵐の前、私とジェシカは買い物に来ていた。 酔い覚ましの薬の購入と食材などを買いに来たのだが… 「はぐれちゃった」 現在絶賛迷子中。 東方の食材を見ていたら、隣にいたはずのジェシカがいなくなっていた。 それだけだったら良かったのだが――― 「君、平民にしてはかわいいね。一緒にお茶しない?」 横にまとわりつく貴族様が、正直邪魔。 さっきから執拗に誘ってくるのだが、早いとこジェシカと合流して帰りたいのだ。 チップも貰えずに媚なんか売ってたまるものですか。 「あの、すみません。友人が待っていますので」 「ほう、貴族の誘いを断るのか」 貴族様が杖を抜く。 周囲は人ごみに包まれていて、誰が何をしているかなんて注目している人はいない。 だからこそ、杖を抜いて脅しに走ったのだろう。 杖に光が灯り、いつでも魔法を放てるぞと、勝ち誇った顔でこちらを見る。 情けない、その程度の魔法で――― 「だとしたら、何をするんでしょうか?」 「その友人を叩きのめして君と」 脅そうって思うほうが悪い。 右足の踵を強く踏みしめる。 同時に飛び出る剣を掴んで、貴族の喉下に突きつける。 記憶を失う以前から持っていた、不思議な剣。 このギミックを取り付けた記憶を失う前の自分に感謝した。 「き、貴族に逆らって生きていられるとでも思ったか…!」 「大丈夫ですよ。たかが平民ごときに負けたなんて恥ずかしくて言えないでしょう?」 左足の踵も同じように踏みしめ、同じ剣を左手に収める。 同時に杖に対して剣を振り、真っ二つにする。 「ね?」 「お、覚えていろよ、貴様の親族縁者もろとも台無しにしてくれる!」 捨て台詞を残して去っていく貴族様。 さて、早い所ジェシカと合流しないと。 市場の入り口を目指して、歩を進めていった。 屋根の上に陣取っていた私は、ルイズの方を見る。 最初はぐれた時、すぐ見つけることは出来た。 しかし、その周辺に貴族が居て、杖を抜きそうになった瞬間に私は建物の屋根の上まで跳んだ。 実力を見てみたいと思った。まぁ、最悪私が行けば大丈夫だし。 それにしても――― 「アレが村を救った人の裏側、か」 最初のうちは、いつものルイズだった。 少しだけ慌てながらも、客をあしらう時の手法でやんわりと断っていた。 だが、貴族の方が杖を抜いた瞬間目つきが変わった。 ブーツから剣が飛び出し、喉元に突きつける。 今までずいぶんゴツイブーツ飾りだなと思っていたものが、まさか剣だったなんて。 ただの翼の形をしたアクセントだと思っていた。 驚きを隠せないでいると、もう一本同じものを出して杖を破壊する。 どうやら二刀流のようだ。 まあ、私はジョブ特性で持っているから問題ないが。 さて、ルイズが動き出した。 私も早めに戻らないと、ルイズを困らせてしまう。 屋根の上を走りながらルイズの元へと向かっていった。 「いたいた、おーいルイズー!!」 「あ、ジェシカ。よかったぁ~」 市場の出口に着いた後、ジェシカが走り寄ってくる。 ジェシカの手元には食材の詰まった袋が。 「ごめんね、結局買い物手伝えなかった………」 「いいよいいよ、それよりも早く帰ろう?」 申し訳なくなりながら、食材の入った袋を持つ。 肉や野菜で一杯になった袋は、ずっしりと重い。 「でも、ジェシカって運動神経いいよね」 「え? どうして?」 「だって、私が市場の入り口に向かってるとき、屋根の上走ってたじゃない」 気が付いたのは偶然だった。 変な気配がすると思って見上げたとき、ジェシカが屋根の上を疾走していた。 私が走るよりも速く、それでいて全くといっていいほど響かない足音。 「ま、まぁそこは軽い技術ってことで」 変なごまかし方をするジェシカを不思議に思いつつ、魅惑の妖精亭に戻るのだった。 いまだに、私がどこの誰なのか思い出せない。 それでも今の生活は楽しい。 だけど、時々来る思いださないといけないって脅迫概念みたいなものは何なんだろう? ―――渦なす……色…震え…止める光…七つの扉…力の…虚栄…到らん………あるがままに 失わずに残った記憶、というよりかは言葉の羅列。 この順番で正しいのかどうかも分からない。 そして、その羅列の最後に響く四文字。 「アルテマ」 この言葉を呟くたびに出る、青白い光の粒は何なのだろうか? それに、剣を握ったときに見えるイメージ。 二対の翼を持つ、天使の姿。 わからない、全てが。 アルテマが何なのか、私が誰なのか。 何も解らないまま、日は過ぎていく。 前ページ次ページゼロと聖石
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前ページ次ページゼロと聖石 完全に魔力を消耗していた私達にはゴーレムを止める術など無かった。 三人とも地面に座り込んでその光景を眺めるだけだった。 『破壊の三魔銃、確かに頂戴しました フーケ』 そして、所変わって学院長室。 不毛な責任の擦り合いの現場。 キュルケとタバサとシエスタ、私の四人は当事者として呼び出されていた。 当番は誰だったのか。 管理体制に問題は無かったのか。 そもそもそこの平民が壁を破壊するからと、言い争いが醜い。 その言い争い自体はオールド・オスマンの鶴の一声で解決した。 さて、肝心のフーケ討伐で杖を掲げたのは私達三人、それとシエスタ。 先生はというと壊滅状態。 貴族の誇りというか名を挙げるでもいいから杖掲げないかこの野郎ども。 おっと、淑女と思えない心象風景でした。反省反省。 行く面子も決まってどうやって追跡するか考えていたらミス・ロングビルがやっと到着した。 ロングビルの話によると、すぐさま情報収集に走ったところ、フーケらしき人影の目撃情報を入手したと。 位置を聞くと、ここから馬で4時間の距離。 ―――ぁゃしぃ。 フーケの事件から大よそ9時間、片道4時間。 はい、もう何かあるのバレバレですな。 タバサとアイコンタクト、それだけでタバサは理解してくれた。 そのタバサはキュルケとアイコンタクト、キュルケもうなずいた。 さらにキュルケがシエスタにアイコンタクト、一瞬きょとんとしていたがすぐにうなずいてくれた。 最後にシエスタが私にアイコン…って、最初にアイコンタクトで話し振ったのは私ですから。 学院から出発し、とりあえず表面上は穏やかに進んでる馬車です。 裏側では如何にしてフーケと関係あるミス・ロングビルをどうやって捕縛するかの会議だった。 と、関係は無いが気になっていたことを解決しよう。 「シエスタ、あなたこんな感じの石持ってたでしょ? アレは一体?」 自身の聖石を見せながら、シエスタに話を振る。 「アレはお爺ちゃんの形見で、サジタリウスって言っていました。誰も信じないんですけど、聖石だそうです」 さいですか。 「じゃあ、あの剣技と剣は?」 「あの、初めて聖石を持ったときにこの技の知識が流れ込んできて、教えてくれたんです。剣聖に至る道だと。 剣の方は、家に置いてあった剣なんです。ほらデルフ、皆に挨拶して?」 「めんどくせぇな、シエスタの剣でデルフリンガーって名前だ。よろしく頼むぜ娘っ子ども」 って、インテリジェンスソードだったんかい。 だとしたらアルテマをかき消したのにも納得がいく。 剣で魔法を無効化して、魔法並みの距離と威力を秘めた技で攻撃する。 ある意味でメイジの天敵ね、この子。 そんなこんなであっという間に目的地に到着。 誰が偵察に行くかで協議しあった結果、シエスタとデルフが突入することになった。 「いい、フーケが居たら星天爆撃打で合図しなさい。そしたらすぐさま離れること。アルテマで消し飛ばすから」 ミス・ロングビルが表情を引きつらせています。 そんなことは気にせずにシエスタ突入。 しばらく経って、シエスタから誰もいないという意味の強甲破点突きが壁を破壊する。 「安全は確認されたみたいね。いきましょう」 ミス・ロングビルの顔がだんだん泣き顔っぽくなってきたのはきっと気のせいだろう。 ミス・ロングビルが外で見張りをすると言ったので、私達だけで中に入る。 中ではシエスタが破壊の三魔銃を抱えて待っていた。 「これが三魔銃、普通の銃に見えますけど…?」 「いや、アルテマの知識に有ったわ。グレイシャルガンにブレイズガンにブラストガン。 魔力を込めることで使用可能になる特殊な銃ね」 そう言ってグレイシャルガンをキュルケに、ブレイズガンをタバサに渡す。 「さて、盗賊退治としゃれ込みますか!」 そう宣言した瞬間にフーケのゴーレムが姿を現す。 Mp、Hpは???表記、ついでにCTも???、ルカヴィ扱いかこのゴーレム。 最近多いなこの思考パターン。 真っ先にタバサがブレイズガンに魔力を込めて撃ち込む。 ゴーレムの頭上に巨大な氷塊が現れてゴーレムに襲い掛かる。 続いてキュルケが射撃、天から降り注ぐ巨大な炎がゴーレムを焼く。 さらに駄目押しでルイズが撃ち出した雷が表面を焦がす。 そしてとどめにデルフリンガーを大上段に構えたシエスタが叫ぶ。 「地獄の鬼の首折る刃の空に舞う、無間地獄の百万由旬…冥界恐叫打!」 巨大な刃が地面からせり上がり、ゴーレムを両断する。 やはりSpが低い敵は相手にならない。 とか考えてたらゴーレムが再生を始める。 「めんどくさいから一撃やっちゃっていいよね?」 全員が一斉に頷く。 腰のポーチから金色の針を取り出し、 「金の針、暗黒回帰!」 投げた。再生中のゴーレムに刺さる。 その瞬間にゴーレムの再生が止まり、逆に崩壊していく。 「これって、土系メイジにとって天敵のアイテムよね…」 全員でその光景を眺めていたら、三体ほど規模を小さくしたゴーレムが出てきた。 こうなったら徹底的にだ。 全員で目線を見合わせて散る。 その間に、術者を探すのとゴーレムを一箇所に集める作業を平行して行う。 「大地を統べる無限の躍動を以て、圧殺せん!」 いつも以上に遅い詠唱を続け、ゴーレムが密集するのを待つ。 全員の誘導が一瞬重なり、ゴーレムたちがお見合い状態になる。 「全員跳んで! タイタン!!」 それは、私達の常識から見ると、精霊を呼び出す魔法。 実際は幻獣界から幻獣を呼び出して行使する召喚魔法なのだが。 巨人が大地を揺るがし、その振動に巻き込まれたゴーレムたちが全員大地へと還っていった。 一息ついて座り込む。 これで後はミス・ロングビルが出てくれば完璧なのだが。 「皆さん、大丈夫でしたか!?」 森の向こうからこちらに向かって走ってくるミス・ロングビル。 ここで起こったことの顛末を話し、全員で戦闘の疲れを癒そうとした瞬間、ミス・ロングビルの声が響く。 「全員動くな。杖と魔銃を捨てろ!」 ほらね、やっぱりフーケでした。 しかも私の使っていたブラストガンを構えて立っている。 しかし、選択ミスだ。 「いや、撃っても多分発動しないだろうし」 「じゃあ、あんたで試してやるよ!」 フーケの指が引き金を引く。 稲妻は発生せずに乾いた金属音が響くだけ。 「あれ? 死にな!」 ふーけはぶらすとがんをつかった! しかしなにもおこらなかった。 「フーケ、あなたの敗因はただ一つ。拾ったのがその銃だった事よ。少しは系統の相性を考えなさい」 要はフーケの系統が風の力である雷を発生させることが出来なかったというわけだ。 フーケに対して初めて見せる手札、テレポで一気に接近してブラストガンを取り戻す。 ついでに詠唱しつつテレポで逃げる。 「時よ、足を休め、選ばれし者にのみ恩恵を与えよ! スロウ!」 スロウが発動し、杖を取り出そうとしたフーケの動作がひどく鈍いものになる。 「はい、捕縛急いで!」 シエスタがロープで一気に拘束、そのロープを固定化の魔法をタバサとキュルケが掛ける。 こうして、フーケは捕まったのだった。 「なんかあんた等の強さって理不尽な域に達してるような気がするねぇ」 「シエスタなんか特にね」 「いや、あんたが一番ずるいと思うわ」 そんな会話があったとか無かったとか。 前ページ次ページゼロと聖石
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前ページ次ページゼロと聖石 ミメットが元気に走り回り、シルキスが火の塔の上に立っている。 ほかの使い魔たちと一緒にはしゃぎ回るのがチョコボの日常だ。 チョコボを飼って知ったことは、成長が早いことだ。 一週間で私の背丈を追い越して、乗れるサイズまで育った。 今は、鞍を体になじませている最中である。 その光景を見ながら、私はポーションを飲む。 手元には白紙の本、王家に伝わる始祖の祈祷書だ。 アンリエッタ姫から結婚式の祈祷文を読み上げてほしいと。 今は各属性の同級生に協力してもらって、文章を考えてる最中だ。 普段ならシエスタが紅茶を運んでくるが、今は帰省中。 といった事情で、チョコボの面倒は私が見ている。 野菜をあげたり、羽を整えてやったり、騎乗の練習をしたり。 コルベール先生は相変わらず『エンジン』を弄っている。 労働八号に進行状況を聞くと、 「ゲンジョウデ、ウゴカスコトハ カノウデス タダシ カイセキシュウリョウハ モウスコシダト イッテマシタ」 この分だと、もうしばらく掛かりそうだ。 二週間で間に合えばいいんだけど。 といった事情にも裏がある。 アルビオン方向から来る噂が不穏な空気をはらんでいる。 それも、軍備を進めているという噂が。 情報元はシエスタ。 タルブ村に集まる噂話を手紙にして送ってもらっている。 休暇なのにゴメンなさい。 しかし、今トリステインを攻めるのは得策じゃ無いはず。 気に入らないとはいえ、ゲルマニアとの同盟が有る。 いくらレコンキスタが最強の空軍を持っていた所で、数は覆せないはず。 「休戦で力を蓄えるの? それとも奇策でも使うのかしら…?」 どちらにせよ、開戦まで時間はそう長くは無い。 ここがトリステインの修羅場といったところか。 ところで今まですっかり忘れていたが、ウェールズさまはどうなったかしら? 別れ際に眠らされたからなぁ… 時間はアルビオンからの帰還までさかのぼる。 傷の処置を済ませた後、私ことワルドは『土くれ』フーケと共に、ウェールズの死体を捜していた。 奥の聖堂には、私とルイズ、あの平民―――シエスタとの死闘の後が残されていた。 中身の無い袖が揺れ、あの戦いで奪われたものと敵の姿がよぎる。 ―――アレだけの傷を負わせたのに、生きているということ自体が驚きだ。 地下の港に倒れていたメイジの遺体を見て、確証に変わった。 鋭い斬撃と共に残る焼け焦げ、十中八九シエスタの聖剣技だ。 聖堂から歩き、玉座の間にたどり着く。 ウェールズの遺体はそこに倒れていた。 手には、シエスタが使っていた剣の片方。 刻まれているルーンが何を意味するか解らないが、魔力の増幅効果を意味するものだろう。 「これは、コピーのルーンソードだね。タルブ村でしか売られていないヤツだ」 「ほう、目利きは流石だな。土くれ」 「ちょっとでも旅をしたことあるなら『冒険者の楽園』のことは知ってるさ」 なるほど、冒険者の楽園か。 気になるところだが、たかが小規模の村。 所詮は搾取されるだけの平民集団が肩を寄せ合っている程度。 「気になるのは、聖剣技か。メイジでもない平民が一体なぜ…」 「やぁやぁ! ワルド君、ウェールズの遺体、それとラブレターは見つかったかね!?」 やけにテンションの高い声が響く。 オリヴァー・クロムウェル。 もともとはただの司祭で、今はレコンキスタ総司令である。 「申し訳ございません、腕ごと持ち去られました」 「いや、構わんよ。それ以上に大事なのはこっちのウェールズだ」 倒れたままのウェールズに杖を振り、呟くような詠唱を紡ぐ。 すると、ウェールズの遺体が起き上がり、クロムウェルに対して礼をした。 ―――これが、虚無の魔法か。 会話をするウェールズとクロムウェル。 薄ら寒いものを感じながら、虚無の力に軽い恐怖を覚えるのだった。 シエスタが帰省してから五日が経った。 レコンキスタから休戦協定が持ちかけられ、王家はそれを受けた。 それにアルビオン側からの親善訪問も間近に迫っている。 当面状況は動かないだろう。 クックベリーパイを食べながら、シエスタからの手紙を読む。 噂話は休戦ムードで染まっていて、当面の動きは無いものと見ている。 ただ、一つだけ毛色が違う一言が載っている。 『レコンキスタの元、全ての国が統一され、聖地奪還のために一丸となる』 という一文が書かれている。 この噂は、レコンキスタに参加していたタルブ村の傭兵からだ。 内容の詳細を読むのと同時に、違和感が湧き上がる。 オリヴァー・クロムウェルはただの司祭だった男だ。 そんな男が虚無を手に入れただけで、あそこまでのし上がれるものなのか? 何か、裏を感じる。 クロムウェルの背後もそうだが、親善訪問にも何かの意図が見えてくる。 全ての国を統一して、聖地を奪還する。 今、レコンキスタは勢いに乗っていて、士気も抜群。 加えて虚無の使い手という肩書きだけでも、掲げた看板に箔が付く。 消耗しているとはいえ、殆どは無傷。 アルビオンの空軍戦力は脅威そのもの。 対するトリステイン側に対抗しうる航空戦力は無い。 この状況で掛けられる奇策は唯一つ。 ―――騙し討ち。 親善訪問でイチャモンをつけ、先制攻撃で数少ない航空戦力を黙らせる。 その後は援軍の来ないうちに、煮るなり焼くなり好きなように調理。 いくらなんでも親善訪問を騙った奇襲など、恥さらしな真似… いや、やりかねない。 レコンキスタは、聖地奪還のためになら何でもやりそうだ。 それこそ、聖地奪還のためには仕方が無いことだという言い訳と共に。 その結論に至った私は、シルキスとミメットを呼び寄せた。 帰省から七日目。 今日の分の手紙を書き終わり、ベットに寝転がる。 やはり、故郷はいい。 しばらくはこうやって、自分の剣を磨いたりしてのんびりと過ごしたい。 起き上がり、村のメインストリートを歩く。 商いの声に、噂話をする近所の人たち、はしゃぎまわる子供の声。 それらを耳にしながら、村を出て、草原にたどり着く。 風が吹き、草の香りが私を包む。 平穏な日常、これらがずっと続いていけばいい。 そう思っていた。 空には親善訪問を行うトリステイン空軍の船が飛んでいる。 ラ・ロシェールよりタルブ寄りで行われる親善訪問のお出迎えは、ここからだとよく見える。 ロイヤル・ソヴリン号から祝砲である空砲が放たれ、返答の空砲がトリステイン側から発せられる。 次の瞬間目にしたものは、レコンキスタ側の船が爆煙をあげる瞬間だった。 その光景を見た瞬間、私は村まで走った。 ここはもうじき―――戦場となる。 その前に村の人を避難させないと! 口笛を吹き、呼ぶのは私の愛羽。 「来なさい、トウホウフハイ!」 凄まじい勢いで飛んできて、隣に降り立つ黒チョコボ―――トウホウフハイに跨り、村へと急いだ。 前ページ次ページゼロと聖石
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前ページ次ページゼロと聖石 ワルドの杖に篭るエアニードルと、タバサの杖を媒体にしたアイスブランドがぶつかり合う。 交差する瞬間に起こる剣戟。 距離が離れた瞬間に、私はブラストガンを連射。 しかし、そこは流石元魔法衛士隊体長。 風竜の手綱を握り、見えない弾丸を回避。 当たりそうな弾は円錐状に張った障壁でしのぐ。 洗練された動きだ。 「キュルケ」 「ええ、風竜との連携がうまくいっていない。付け入る隙はあるわ」 「じゃあ、よろしく」 え、と思う間も無くジャンプするタバサ。 思考が真っ白になるが、意図に気が付いてブレイズガンを構える。 その間に、シルフィードがものすごい勢いでワルドの風竜に体当たり。 お互いの速度がゼロになった瞬間、私はブレイズガンをワルドの杖に連射。 エアニードルに阻まれて破壊は出来なかったが、杖を持つ手を弾く。 同時に風を切る音。 アイスブランドをワルドの風竜に突き立てるように落ちる。 風と風と風の三乗スペル。 氷の刃が突き立った瞬間に、内側から風の刃が内部を蹂躙する。 それを見届けたタバサが、即座にシルフィードへと舞い戻る。 「エアスパイク、シルフィードとの連携だからツインスパイク」 「きゅいきゅい(頭コブできたのね)」 「というか、ためらいも無くその連携が出来るあんた達が怖いわ」 眼下には絶命し、墜落する風竜。 同属が落ちていく姿を見て、シルフィードは呟いた。 「きゅいきゅいきゅい(勝てるかどうかはランナーしだいだったのね)」 タバサはシルフィードを杖で叩く。 何を言っているか解らない私は、その光景に首を傾げるのだった。 レキシントン号の周囲にいた戦艦約五隻。 今現在こちらに向かって進行してくる。 村の内部では一丸となって炊き出しが行われている。 最初は手伝おうと思ったのだが、休んでなさいと止められた。 シチューを啜り、心を落ち着ける。 「あ、いたいた! シエスタ!」 声のした方向に顔を向ける。 そこには、ギーシュ様が立っていた。 「ギーシュ様、なぜここに!?」 「本来なら君を守りに、と言いたい所なのだが…残念ながら今の僕はメッセンジャーだ」 確かに。 魔法というスキル自体は心強いが、数が勝負のワルキューレでは話にならない。 自分でも解るひどい評価を下しつつメッセージを聞くことにする。 「私とタバサはルイズの援護に行く。シエスタはとにかく時間を稼いで―――キュルケより」 それだけで、この戦いの光明となった。 やはり、ルイズ様は来てくれた。 私はその到着を完全な体勢で迎えなければ。 「張り切ってるな、相棒」 「こんなところで死ぬわけにはいきません。ルイズ様を迎えなくてはならないのですから」 デルフを振り、構える。 トウホウフハイがクェ、と鳴いた。 さあ、お迎えしよう。 ルイズ様を迎えるための準備をしよう。 笑いながら皆を迎えるために。 しつこく飛んでくる砲弾をかいくぐりながら詠唱。 目標はレキシントン号。 こいつを潰して、早いとこタルブ村に行こう。 私の所にキュルケとタバサが来たということは、シエスタの所にもギーシュが行っているという事だ。 とりあえず、目の前の敵に集中。 砲撃をかわしながら紡ぐは、古に失われた虚無の系統。 今まで使い手のいなかった失われし系統。 詠唱の大半が終わり、放とうとした瞬間に気が付く。 レキシントン号の護衛艦の内、五隻ほどがタルブ村の方向へ向かっている。 それでも魔法は止まらない。 「エクスプロージョン!!」 放たれた光は、レキシントン号と周囲の戦艦を巻き込んだ。 光によってマストや風石が破壊され、墜落していく。 地上のアンリエッタ様はその光景に驚きながらも、軍を突撃させた。 精神力をエクスプロージョンによって根こそぎ持ってかれた。 少しでも気を抜くと、意識は闇の中に閉ざされてしまう。 それは駄目だ、私はシエスタの元に行かなくちゃいけない。 かすかに薄れる視界の中、私はミメットをタルブ村に向けて飛ばした。 降り注ぐ砲撃、鳴り止まない爆音。 襲い掛かるレコンキスタの兵を一刀両断にする。 タルブ村事態にも砲撃を受けているが、被害はそう大きくない。 ラ・ロシェール周辺の空が急に明るくなる。 そちらを見ると、巨大な光の玉が戦艦を焼いていた。 ルイズ様が巻き起こしたものだ。 確証はないが、その直感を信じながら剣を振るう。 横ではギーシュ様がワルキューレで懸命に戦っている。 シルキスが岩石を落としてメイジを蹂躙する。 背後では刀に宿る怨霊が、周囲の敵をなぎ払う。 槍に矢が飛び交う。 あちこちで響き渡る怒号。 私は、ルイズ様の到着を待ち続けた。 かすむ視界の中、私はタルブまでたどり着く。 残された精神力はわずか。 それでも、私は全力を振り絞る。 詠唱が短く、威力の有る最高峰の魔法を放とうとする。 「震えろ…」 誰がこの行動を褒め称える? 後世の歴史家は「最低で、最悪の行動」と評価するかもしれない。 そんなボロボロの意識で何が出来る? 心の問いかけに、私は声に出してこう言った。 「そんなことは関係ない。私が、私の魂が自分のしたいことをしろと、そう告げている」 だから、私はこの選択を後悔しない。 たとえ、死ぬことになろうとも。 生きて、彼女達の元にたどり着けるのなら。 それが、希望のない絶望の道だとしても。 「命つなぎ止める光……」 ああ、わかる。 体が変化を始めている。 髪の毛が銀に染まり、背中に違和感を感じる。 「力の塔となれ………」 背中が弾け、翼が飛び出す。 頭から、小さな翼が生える。 完全な異形/聖天使と化してでも。 それでも。 ――― わたしは、みんなの所にいくよ。 だからみんな、必ず待っててね ――― 「完全アルテマ!」 私は見た、ルイズ様が来てくれたのを。 私は見た、ルイズ様がふらふらになりながら魔法を使おうとしているところを。 私は、見てしまった。 ―――ルイズ様が、聖天使になってしまった瞬間を。 そして、聞いてしまった。 ルイズ様の、心の声を。 ――― わたしは、みんなの所にいくよ。 だからみんな、必ず待っててね ――― 「ルイズ様ぁーーーーーーー!!!」 戦艦五隻が、アルテマの光に包まれる。 膨大なまでに荒れ狂う魔力が、全てを包み込む。 そして、ミメットから落ちてゆくルイズ様。 生涯でも最速のスピードで戦場を駆け、落下地点に回りこむ。 落ちてくるルイズ様に合わせて飛び上がり、受け止める。 受け止めたルイズ様は、眠っていた。 体を調べても、翼は消えていた。 安堵の息をつきたかったが、つけなかった。 普段から聖石に触れている私は悟ってしまった。 ―――もう既に、人間という種族から外れてしまったのですね。 今まで、一房だけ銀に染まっていた髪の毛が、全体に広がっていた。 ルイズという貴族を象徴していたピンク色の髪の毛が、一房だけになっていた。 「サジタリウス、ルイズ様は」 その問いに対して、サジタリウスはかすかな光を放つだけ。 とりあえず、生命に別状はないみたいだ。 周りを見ると、アルテマの光で敵は混乱。 こちら側も呆然としているが、この程度ならたきつければ何とかなる。 「全員、畳み掛けなさい! ルイズ様が作ってくれたチャンス、無駄にするなぁぁ!!」 私は絶叫し、ルイズ様を運びながら後退。 爆音の響かない戦場を、怒号に包まれた戦場をただひたすら後退した。 前ページ次ページゼロと聖石
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前ページ次ページゼロと聖石 トリステイン魔法学院にフーケが現れ、宝物庫より『破壊の三魔銃』が盗まれる。 翌日、フーケ討伐隊が編成され、フーケの捕縛と『破壊の三魔銃』を取り返すことに成功。 フーケはそのままチェルノボーグの監獄に投獄。 討伐隊に志願し、フーケを捕らえた同学院の生徒達にはシュヴァリエ勲章を与える予定。 「瓦版にまとめるとこういった感じになるのかねぇ……」 投獄されてから衛兵や日常会話などから察せられる言葉から今後起こりうる展開をシミュレートする。 今現在で分かったことは、近々戦争が起こる。 それくらいのことだった。 フーケも捕らえ、フリッグの舞踏祭も例年以上に盛り上がっている。 キュルケは男子に囲まれ、タバサはテーブルの料理を食べ続けている。 私はというと壁の花に徹している。 一人、テラスで物思いにふける。 思い返すのはオールド・オスマンとの会話。 「あの、一つ聞きたいのですが。あの魔銃は私達の世界のものではないですね」 その言葉にオスマンは頷きをもって返した。 「やはり、この聖石と同じ世界のもの…どういう経緯で入手したんでしょうか?」 オスマンは椅子から立ち上がり、窓の前に立つ。 その瞳は空のみを捉えているようにも見える。 「昔の話じゃ。わしが森で散歩など楽しんでおったらワイバーンの群れに襲われての。 そのころは未熟で、数体倒したところで限界が来てしまった。そこに現れたのが、彼じゃった」 話しながら部屋据付のチェストを空け、何かを取り出す。 強い力でひしゃげているがシルエットや構造は破壊の魔銃と同じだ。 「そこに、すでに瀕死状態の男が現れて、この魔銃でワイバーンを撃っていった。 不思議なことにワイバーンが石化しての。この銃は彼がワイバーンの攻撃を防いだ際にこうなってしまった。 全てのワイバーンを倒した後、彼はそのまま命を落としてしまった。 最後の言葉は、『人をも超越した力ですら、平民は自由を得ることは出来ないのか』と、な」 そして、オスマンは椅子に座る。 「彼は丁重に埋葬し、彼が持っていたものは全て宝物庫にしまった。わしも一度だけ使ったことがあるが、危険だからの」 「そうだったのですか」 「さて、ルイズ君。わしは君の使い魔の事を危険視している」 「そうではないかと。先住魔法に近い魔法を持ち主に授け、人を狂わせるほどの魔力を持つ。 最初にきちんとした契約を結べないと、石から召喚した存在に魂ごと食われ、乗っ取られる。 これは、聖石という名前が与えられてはいますが、まるで人自体の欲望を表したものかと」 「だからこそ、君やシエスタ君が力におぼれ、悪魔に身をゆだねた時、わしは君等を殺さなくてはいかん」 「そのときはぜひ、私を殺してください。私はこの契約をしたときにその覚悟を済ませましたから」 「万が一の時、始祖の名に誓って、誇り高きあなたに殺されましょう」 「それでは、もう戻ってもよいぞ。今夜はフリッグの舞踏祭じゃ。ゆっくりと楽しみたまえ」 いざというときが起きたら私を殺してくれる。 そうならないことを、私は祈りつつ、月を肴にワインを煽る。 「いい月ね、そう思わない? シエスタ?」 私の後ろに、シエスタが立っていた。 本来、平民が入ることすら出来ない舞踏祭だが、今回の功績で参加が認められたのだ。 若干青みがかった白い生地のドレス。 「はい、とてもきれいな月です」 シエスタの手には年代物のワインが一本握られている。 なんでもコック長が持たせてくれたんだそうな。 シエスタが、私の隣に立つ。 静かに月を見上げ、呟く。 「戦士は剣を手に取り胸に一つの石を抱く。 消えゆく記憶をその剣に刻み、鍛えた技をその石に託す。 物語は剣より語られ石に継がれる」 お爺ちゃんが教えてくれた聖石の詩です、と嬉しそうに語るシエスタ。 「だとすると、聖石に継がれているのは技で、かつての記憶は剣に刻まれているってこと? 剣って一体何かしらね?」 その言葉に、微笑みながらシエスタは、 「私たち自身、って言うのはどうでしょうか?」 そう、語った。 その後、二人で笑いあった。 「ところでシエスタ、あなたのお爺様ってどんな人だったの?」 「一言で言ってしまうと、聡明で、不思議な力を使える人でした」 なにせ、辞書が武器でしたからとさらりと語る。 「辞書? あの用語とかの意味をまとめたぶ厚い本の?」 「ええ、昔はその力でトロール鬼を数体殺せるほどの力はあったとか」 それに、と付け加えて、 「私が剣を持てたのもお爺様が、『目の前で繰り広げられている不正や悪事を見捨てておけない人間がいる』 って、教えてくれたからですし」 その言葉で、彼女は本当にお爺様のことが好きだったと分かる。 だからこそ、シエスタは聖石に抗うことが出来たのだろう。 シエスタのお爺様に感謝しつつ、二人で月を肴にワインを飲み交わした。 そして、翌日。 「頭いたーい、気持ち悪ーい」 「大丈夫ですか、ルイズ様……うっぷ」 二人揃って二日酔い、調子に乗って五本も空けるからである。 その光景にキュルケはあきれ返りながら二人を介抱した。 そんなこんなで数日が過ぎた、ある昼下がり。 普段ならシエスタがせわしなく働いているころだが、見当たらない。 それに、いつもと違ってケーキの味が荒い。 厨房にいるであろうシエスタのところに向かう。 すると、厨房の皆さんが何かしらの怪我を負っている。 事情を聞くついでに新魔法の実験。 「清らかなる生命の風よ、天空に舞い邪悪なる傷を癒せ! ケアルラ!」 大怪我を負っていたコック長を含め、全員の怪我を癒す。 包帯をはずして怪我がなくなっているのを確認すると、コック長に詰め寄る。 「全て話しなさい。シエスタが今この場に居ないことが関係あるんでしょう?」 大まかな内容をまとめるとこうだ。 モット伯爵がやってきてシエスタを連れて行こうとした。 阻止しようとして返り討ちにあう。 そのせいで食事の準備にも影響がでて、特にデザートのコック補佐を担当していたシエスタが居なくなり味が低下した。 うむ、シエスタが連れて行かれた。 そのせいでデザートの質も落ちたと。 これは由々しき事態だ。 デザートもそうだが、モット伯は女癖が悪いと聞く。 これでシエスタが精神に深い傷でも負ってしまったら、私やオールド・オスマンの全存在をかけた戦いをしなくてはならない。 ただでさえ魔法無効の剣を持っているのに、その力が私達に向いたら世界滅ぶぞ? 「一つだけ聞かせて、シエスタはいつもの剣を、デルフリンガーを持ち出せた?」 その言葉に、頷きを返されると私は顔を青くした。 準備を整えないと。 急がないと、モット伯爵が殺されるかもしれない。 魔法は効かないし、剛剣で丸裸にされた後、新しい技を覚える実験台くらいにされそうな予感。 大急ぎで支度し、事情を話してタバサとキュルケにも付いてきてもらうことにした。 そしてたどり着いたモット伯爵の屋敷跡。 私はもとより、キュルケもタバサも驚きを禁じえないようだ。 そして三人の思考は一致した。 …遅かったか。 絢爛豪華な屋敷は見るも無残な姿をさらしている。 壁という壁には巨大な穴があき、倒れ付すメイジ達がそれに彩を加えている。 そして剣を持つ人影がこちらに向かって走りこんできて飛び込んできた。 「ルイズ様ぁーー!!」 「シエスタ!? 大丈夫、怪我は無い?」 はい、と頷き返すシエスタ。 「こんな服着せられて、部屋にモット伯が押し入ってきた時、怖くなって、私…」 多分、モット伯爵はもっと怖かっただろうに。 不憫と思いつつも自業自得なので同情はしないが。 シエスタを抱きしめつつ、頭を撫でて落ち着かせる。 「まぁ、特に問題も起こらなかったしこれで円満に解決ってことで」 「そうね、これ以上ここに居ても仕方が無いし」 「学院に帰還する」 「はい、皆さん助けに来ていただいてありがとうございました!」 こうして、モット伯のことなどすっかり忘れて帰ろうとした瞬間、瓦礫の一部が水に流される。 「貴様、平民風情がぁ!!」 膨大な水が渦巻き、こちらを押し流そうと鎌首をもたげている。 「新しい魔法覚えたから、最後に実験していくわ」 その言葉に誰も反対することなく、シエスタがデルフを構えて魔法を切り裂いて防ぐ。 その間にもルイズは詠唱を続ける。目標は目の前のバカ一体。 「時は来た。許されざる者達の頭上に星砕け降り注げ! メテオ!」 その二つ名である『波濤』をも飲み込み、隕石が着弾。 モット伯爵跡地は完全に更地となってしまった。 「威力が高すぎるから、封印ってことで」 「さすがにアレは俺にも斬れんわ」 こうして、メテオはめでたく封印されることとなった。 前ページ次ページゼロと聖石
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前ページ次ページゼロと聖石 二人の決闘が終わったあと、私は町を散策していた。 ヴァルゴを見てもいつもの様に静かな光を湛えるだけ。 アルテマは何も言わない。 空は、雲が飛んでいるだけだった。 そして、夜。 さすがに昨晩ははしゃぎ過ぎたので今晩は静かに過ごす。 反省を生かし、ガチンコ! 雑学コラム対決をやっている時に事件は起きた。 いきなり地震が起きたのだ。 いや、地震というよりはゴーレムが動くような――― 入り口から外を確認しようとした瞬間、シエスタが入り口に向かってテーブルを投げつけて入り口をふさぐ。 先ほどまで食事をしていたテーブルは黒壇製の頑丈かつ非常に重たいものだ。 それを投げつけるなんてなんという腕力、シエスタ恐るべし。 次の瞬間、テーブルに何かを叩きつける音が響く。 メイジと傭兵の混成部隊、狙いはアンリエッタ様から預かった密書と見る。 とりあえず皆と合流し、シエスタが同じタイプのテーブルを横倒しで設置。 ここでの作戦はタバサ、キュルケ、ギーシュが囮、私はワルド一緒に港へ、シエスタが正面突破をかけて港へ。 方針が決まった瞬間、キュルケが化粧を始め、シエスタが軽くステップを踏む。 「じゃあ、後でまた、シエスタ」 「ルイズ様もお気をつけて」 シエスタが入り口のテーブルを切り割って敵陣に突入。 それを見届けた後、私達は裏口へと走っていった。 シエスタが外に出て気が付いたのは、ゴーレムの作成者がフーケだということだ。 作りもそっくりだが、何よりゴーレムの肩にフーケを見てしまった。 それでも足を止めずに、進路を阻む傭兵を切り伏せながら進む。 その間に宿を攻撃し続けるゴーレム。 何とかしなくては。 有る程度安全圏に離れた瞬間、ゴーレムに狙いを定め、 「氷天の砕け落ち、嵐と共に葬り去る滅びの呼び声を聞け! 咬撃氷狼破!」 地面からの刃でゴーレムの右足を破壊しておく。 直後に崩れ落ちていくゴーレム、ルイズ様の金の針効果だろう。 それを見届けて更に加速、一気に港を目指した。 テーブルの影からフレイムボールを撃って相手を牽制。 ギーシュがワルキューレで押し入ってこようとする傭兵を抑え、タバサがエアハンマーでなぎ倒す。 その間にもゴーレムが店を攻撃し、そのたびに壁に亀裂が走る。 「こういうゴーレム相手には、ルイズがくれた金の針で―――」 取り出した瞬間に、再度衝撃が襲う。 その衝撃で金の針を落とし、前列で戦っているワルキューレの足元へ。 そして、傭兵の攻撃で一歩後退したところで思い切り踏みしめ、暗黒回帰発動。 「なにもしていないのに僕のワルキューレが!?」 さすがにこればっかりは悪いと思った。 強度的にまだまだ持ちそうなワルキューレを一体無駄にしたのだから。 「ごめん、ゴーレム殺しのマジックアイテムが間違って発動しちゃった!」 土と土と火のトライアングルスペルで、地面から襲い掛かる炎を出しつつギーシュに謝る。 「そのアイテムはどうやって使うんだ!? それ次第では形勢を逆転できるかもしれない!」 乱戦の最中にどんな策を思いついたのかは知らないが、乗ってみるのも一興。 この針を刺せばいいと教えるとその針をひったくって床に突き立てる。 「ヴェルダンテ、なんとかゴーレムの体勢を崩すからチャンスをうかがってそいつを刺してくれ!」 その言葉に反応してジャイアントモールが床板を破り登場。 金の針を抱えて床下へ消えていった。 「いつの間に使い魔をつれてきたのよ?」 「最初からだ。言い出す暇が無くてね、伏せ札として利用してみた」 「体勢を崩すのは困難」 「そ、そこはほら、団結すれば何とか…」 タバサの冷静な判断が作戦に駄目出しをする。 それでも意見には賛成なのか氷の塊をゴーレムの足にぶつけて体勢を崩そうと狙う。 しかし、質量差で効果は無きに等しい。 さっきと同じスペルで援護しつつ、体勢を崩す方法を考える。 単体で崩すのは困難、質量体をぶつければ崩せるかもしれない。 ギーシュのワルキューレなら条件を満たしているが、勢いが足りない。 そこで名案を思いつく。 これならうまくいくかもしれない。 思いついた方法をタバサとギーシュに伝える。 ワルキューレを一体作ってもらい、足を片側だけ折って傾斜のつけたテーブルにそのワルキューレを寝転ばせる。 タイミングは、ゴーレムが壁の一部を壊した瞬間。 直後、壁の一部が崩れてゴーレムの姿が見える。 「タバサ、ワルキューレ射出!!」 その言葉にタバサがエアハンマーでワルキューレを足から叩いて発射。 青銅の質量体がゴーレムの頭部付近に命中、その瞬間にゴーレムがよろける。 しかし、倒れるまで至らない。 駄目か、と思った瞬間、ゴーレムの右足が地面から出た巨大な刃に貫かれて崩壊。 シエスタが援護してくれたのだ。 更にギーシュのヴェルダンテが金の針を刺した。 暗黒回帰によって崩れるゴーレム。 それをチャンスにつなげるために、ギーシュにワルキューレを量産させ、タバサがエアハンマーで撃ちだす。 猛スピードで飛来するワルキューレに傭兵団が後退した瞬間、地面が燃え上がった。 ワルキューレ内部に油を錬金し、地面に当たって砕けた時に流れ出すようにしておいた。 燃え上がる炎に混乱している最中、タバサが氷を何個も撃ち込む。 水蒸気が発生し、視界をさえぎったところで全員が女神の杵亭を脱出した。 ワルド様が所々に出てくる傭兵の待ち伏せを切り倒しながら進む。 私は今出来ることをするために、詩を歌っている。 「その心は闇を払う銀の剣、絶望と悲しみの海から生まれでて―――」 良く分からない異国の歌だが、精神が昂る。 走りながら歌うのは辛いが、これも早く港に着くための手段。 おかげで本来なら十分かかるような道を五分で踏破した。 そこで歌うのをやめ、息を整える。 「それも君の魔法なのかい、ルイズ?」 首を振って、私はただ歌っただけよと付け加える。 ちょっとだけ特別で、全くといって効果の無い歌を。 港の桟橋に着くと、シエスタが待っていた。 正面突破だけあってさすがに速い。 ワルド様が船を早く出すように交渉し、出港。 こうして、何とか無事にアルビオンに向かって出発したのだった。 ところでキュルケたちは無事に脱出できたのだろうか? 気になるが気にしても仕方が無いと割り切って月を見上げた。 前ページ次ページゼロと聖石